日置 道隆 Interview

「いのちを守る森の防潮堤」

推進東北協議会 会長

輪王寺住職

日置 道隆(ひおき・どうりゅう)






いのちを守る森の防潮堤に至るまで

宮脇式の植樹により再生されつつある輪王寺の参道

私が初めて宮脇昭先生と植林を手掛けるようになったのは平成15年以来の事です。
当時、輪王寺の参道の地下に道路を建設することになり、参道に生い茂っていた杉並木がすべて伐採されることになったのが切っ掛けとなりました。輪王「いのちを守る森の防潮堤」とは、震災がれきと土を混ぜた丘の上にその土地本来の広葉樹を植え、自然の防潮堤にしようとするプロジェクトです。
東日本大震災一ヶ月後、世界各国で森の再生を手掛けている横浜国立大学の宮脇昭名誉教授の提案により、早くも同年の4月7日には現地調査が開始され、私自身も協議会を立ち上げ東北側の現地パートナーとして活動して来ました。
寺は代々境内の自然を大切にしてきたこともあり、森林再生の為に必死にいい方法を調べたところ土地本来の木々を多種植える「宮脇式」植林を試すことにしました。
この8年間で60種類の木々を計3万3000本を境内に植え、「いのちが宿る森」が再生されつつある状況です。

自然本来の強さを防潮堤に生かす

境内で育てられているタブノキの苗

境内で育てられているタブノキの苗

東日本大震災時、ご存知の通り沿岸部を大津波が襲いました。その際、松林がすべてが流されてしまうところもあれば、南三陸町の椿島のように何事もなかったかのように平然としている島もあるのです。
その違いはなにかというと、樹種による違いの他、松林が単植林であったのに対して、椿島は多様な木々が生えている多層構造の森だったのです。そしてもう一つは、椿島は昔からの無人島で元々その土地に生えている木々、タブノキ、シラカシ、ヤブツバキなどよる自然の掟に従った森であっためであると考えています。

結局は自然のものが一番強かったということです。いのちを守る森の防潮堤は、従来その土地にあるべき木々を植え、競争しながら成長することで生まれる自然のしなやかな強さを生かした防潮堤を作ろうというプロジェクトです。

確かに人間の手で自然のものを作るって言えば一見矛盾しているのですが、2・3年で人間が手入れをする必要がなくなるように作ることと、その土地本来の多種な木々を植えることにより可能な限り自然に近い森を再現しています。そして10年、20年と人間の手を入れないことにより、その場所は自然に非常に近い状態になります。

沿岸部にのびる「いのちを守る森」は、緑の壁となって地盤を守り、津波のエネルギーを減殺し、水位と速度を下げ、避難する時間を稼いでくれます。また引き潮の時は漂流する人々や財産が海に流出するのを食い止める役割も果たします。
また、土地本来の森の主木の多くは根が地中に深くまっすぐは入り土壌保持力が強いので、根こそぎ倒れることはありません。


人と自然の共存・共栄

今回の大きなテーマが人と自然の共存・共栄だと思います。
今まで、自然という言葉を使ってきましたが、私が考える自然は人為的なものを排除したものです。本来なら人間も自然の一部であるはずなのですが、現代の社会では人間の活動が自然の枠組から大きく外れてしまい、人間圏と自然圏を分けて考えなければならないのが現状です。

東北地方の沿岸部に、コンクリートの防潮堤が造られようとしています。お分かりかと思いますが、コンクリートで造ると20年後、30年後と手入れが必要となり、100年もの年月がたつと防潮堤の機能を果たせるかどうかも保証されません。
以上で述べたことに加えまして、防潮堤そのものが、次の世代や次々の世代に残されるものであるという事を考えなければならないと思います。
それに対して森の防潮堤の一つの特徴として、初めは手入れが必要ですが土地本来の木々が森に育ってきます。そのあとは自然に任せておけばいい、人間の手を加える必要がない点が挙げられます。そして間違いなく、人類生存中は存続します。

今回、津波によって私達に突き付けられたものとは「人間が自然をコントロールできるというのは幻想だった」ということだと思います。もちろんコンクリートの防潮堤を造るべき所には造ればいいと思うのですが、震災から学んだことを生かしていくことが大切だと思います。これからは、自然を支配するのではなく科学技術、自然、人間が共栄しあう社会を構築する必要があるのではないでしょうか。


補足 – 自然潜在植生の考えについて (「鎮守の森」宮脇昭著より)

輪王寺門と参道

輪王寺門と参道

潜在自然植生とは、すべての人間活動が停止したときに、その土地の自然環境条件が終局的にどのような植生を支えうるかという理論的な自然植生のことをいう。この概念はドイツの植物学者ラインホルト・チュクセンが提唱し、その元で学んでいた宮脇昭によって実際の植生回復へ応用する試み「ふるさとの木によるふるさとの森づくり」が始められ、現在まで多くの成果を生んでいる。

人物紹介

日置 道隆(ひおき・どうりゅう)

仙台市青葉区の曹洞宗「輪王寺」の住職で、2004年から県内で植樹活動を進める。東日本大震災、横浜国立大の宮脇昭名誉教授らと「いのちを守る森の防潮堤」推進東北協議会を立ち上げ、その会長を務める。

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